エイジング(老化)は人や場所を選ばずして起こる、自然な生理的変化です。この変化は、生命活動の中で起こる劣化を反映したのもので、結果として老齢に伴い合併症を引き起こします。肌においても、特に 細胞活動や細胞環境に変化が起きます。そして、こうした変化は肌の状態に現れます。エイジングのサインとして、下記の現象が挙げられます:

  • シミやそばかす
  • 顔のシワ
  • くすみ
  • 弾力の衰え
  • 表皮が薄化
  • 脂質層が薄くなることで、肌の水分が乏しくなり「クモ状静脈」が生じる

肌のお手入れをしてエイジングの影響を少なくすることは、私たちの生活の質に影響するため、とても重要です。多くの人が若く健康的な容姿に憧れます。それが強い生命力と優れた遺伝子力を象徴しているためでしょう。

肌の生理的(年齢的)な エイジングには、活性酸素が蓄積されることが関係しています。活性酸素が蓄積されると、脂質分子の酸化、ゲノム損傷、細胞機能や細胞回転への障害を引き起こし、皮膜組織が破壊されてしまいます。

光老化(外見の早期老化)は、肌の内部構造(コラーゲン分解および日光弾性線維症)に ダメージを与える紫外線に肌をさらすことが原因で起こります。 この紫外線が、いわゆる酸化ストレスを活性化させます。この酸化ストレスが、活性酸素の蓄積、コラーゲンおよびエラスチンの分解に影響を与え、シミ、肌荒れ、たるみができてしまうのです。

現代における肌のエイジングは、生物学的プロセスにおいて内因性要素と外因性要素があるという見方があります。

エイジングの外因性要素:
  1. 日光に肌をさらすことが、肌の老化の主な原因です。UVB(290〜320mm)やUVA(320〜400mm)といった紫外線は、肌の保護膜を貫通してしまうことが証明されており、UVAやIRA(770〜1400mm)においては(Schroeder P et al., 2008)、真皮や皮下組織にまで到達してしまうほどです(Kligman LH, 1982)。

日光に肌をさらすことがどんな影響を与えるのか、初めて観察したのは皮膚科学者のパウル・ゲルソン ウンナ氏(Paul Gerson Unna)でした。彼は、ハンブルクの港で船乗り達の肌の状態が劇的に変化する様子を観察しました。その後、1986年にクリグマン氏、及びクリングマン氏によって、光老化という用語が作られました。

紫外線および赤外線は、 活性酸素(ROS)を発生させる大きな原因です。活性酸素は、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼやAP-1、NF-k2といった転写因子を活性化し、コラーゲンを減少させてしまいます。また、 活性酸素は 、膜脂質、DNA、タンパク質を酸化させ、細胞にダメージを与えます。そして、コラーゲンやエラスチンといった細胞の隙間を埋めている細胞外成分を減少させ、破壊してしまうのです。こうした細胞外成分が破壊され、失われることで、肌がたるみ、ハリがなくなり、シワやくすみが出てきてしまいます。

紫外線および赤外線は、TNF-α、IL-1、IL-6、 IL-8などの炎症性サイトカインの転写や核内転写因子 AP-1を活性化させる可能性があります。それによって、天然コラーゲンを劣化させる マトリクス・メタロプロテイナーゼ(MMP)の合成を引き起こしてしまいます。

また、日光に肌をさらす以外に、喫煙、大気汚染も外因性要素となり、肌の早期老化につながります。

  1. ハリー・ダニエル(Harry Daniel)は、1969年に「Smooth Tabacco And Wrinkled Skin(煙草を減らして、しわのない肌に)」という記事を発表しました。その中で、喫煙者は非喫煙者よりも老いて見える、と彼は述べています。現在では、 コラーゲンIとコラーゲンIIIを分解させるMMP-1やMMP-3が、喫煙によって通常よりも多く発現してしまうことは周知の事実となりました(Kennedy et al., 2003)。
  2. 大気汚染も、シワやシミといったエイジングサインの発生を引き起こす大きな原因の一つです。車から排出される汚染粒子が化学物質や有機金属を運ぶ役割を担っているため、汚染が酸化的ストレスを発生させることが研究でわかっています。汚染粒子により運ばれて来た化学物質や有機金属はミトコンドリアにとどまり、そこで直に活性酸素を生成します(Li N et al., 2003)。したがって、大都市の交通公害はシミやシワができる原因なのです。
エイジングの内因性要素:

内因性要素には年齢とともに起こる様々な劣化のメカニズムがあり、私たちの健康、特に肌に多大な影響を及ぼします。主な要素は年齢とともに起こる老化現象です。その一環として、フリーラジカルの蓄積やテロメアの長さが短くなることが挙げられます。テロメアの長さが短くなると、細胞分裂を低下させ、成長因子、シグナル分子(サイトカインおよびケモカイン)、ホルモン(エストロゲ、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン(DHEAS)など)を減少させてしまいます(Wespes et al., 2002) (Arlt, 2004)。

  1. 2つのエイジング過程は、どちらも活性酸素の量に左右されています。活性酸素の量は、酸素の吸収、紫外線やストレス、汚染、食事性欠乏症などのイオン化放射に関連したメカニズムによって決定されます。天然酸化から身体を守ってくれる存在として、酵素、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、ペルオキシレドキシンがありますが、どれも年齢とともに急速に減少していきます。

活性酸素 (ROS): 活性酸素 (ROS)とは、酸素が化学反応を起こすことによって産出される副生成物です。好気性生物において、ミトコンドリアが酸素を消費して水を生成しますが、活性酸素はこのミトコンドリアで産生されます 。(図1参照)
producing ROS

図1

ミトコンドリアによる酸素呼吸で産生される活性酸素の例が、スーパーオキシドアニオン(O2-)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシルラジカル(OH)です。免疫システムでは、酸化窒素(NO)、スーパーオキシドアニオン(O2-)、過酸化水素(H2O2)、ヒポクロライド(OCI-)などの酸化物を使ってバクテリアやウィルスを死滅させる食作用活性が行われていますが、活性酸素はこの際にも産生します。

活性酸素の主な供給源として他にも、酸化反応を行っているペルオキシソームがあります。ペルオキシソームで行われる酸化反応は、β酸化と呼ばれ、主に脂肪酸を酸化させてアセチルCoAを生成します。この際に、過酸化水素(H2O2)が産生されます。ペルオキシソームには、 有機物質から水素を取り除く働きを持つカタラーゼや尿酸酸化酵素といった酸化酵素が含まれており、このカタラーゼが過酸化水素を水と酸素へ分解して いきます。(図2参照)

β-oxidation

図2

しかし、ある特定の状況では過酸化物は分解を逃れることがあります。それに加え、老化によりカタラーゼの活動が減少すると、過酸化水素が体内にたくさん残ってしまいます。

フリーラジカル説では、活性酸素が老化を促進する大きな原因であることが唱えられています。過酸化水素(H2O2)は、DNAへダメージを与え、タンパク質やある特定の酵素を酸化させ、過酸化脂質を産出します。これによって、細胞や細胞外環境にダメージを与えてしまのです。

活性酸素は、私たちの身体に対して200種類以上ものダメージを与えると言われています。そして、それにより様々な病気を引き起こしかねません。その例として、糖尿病、動脈硬化、脳卒中、老年生認知症、冠動脈疾患(心筋梗塞)、脳梗塞、虚血、腫瘍(癌)、白内障、アトピー性皮膚炎、胃炎、肺炎、関節炎、炎症、化学的不均衡、農薬中毒、自己免疫疾患、ストレス潰瘍、HIV、パーキンソン病、歯周病が挙げられます。

一般的に、生体にはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)というフリーラジカルから身体を守るメカニズムがあります。これは、1969年にマクコード氏(McCord) とフリードヴィッチ氏(Fridovich) により発見されました。フリーラジカルの解毒は、 グルタチオンペルオキシダーゼやカタラーゼといった酵素が行います。グルタチオンペルオキシダーゼは、過酸化水素(H2O2)を水(2H2O) に変え、カタラーゼは過酸化水素(H2O2)を水(H2O)+酸素( O2)へ分解します。こうした重要な酵素の他にも、ビタミンEやビタミンCなど、抗酸化作用を持つビタミンも解毒に使われます。最近の研究では、ヒアルロン酸低分子はグルタチオンよりもさらに活性酸素を除去する効果があり、フリーラジカルの影響を減らすのに重要であることが分かっています。(Chunlin ke et al., 2011)

  1. 肌のエイジングは、「体内時計」にも関係があります。この体内時計の進行は避けることができません。 細胞分裂を繰り返すと、細胞は細胞老化または細胞死に至ります。この現象は、テロメアという細胞の染色体の末端部分に関係しています。細胞分裂が起こると、テロメアの長さは短くなっていきます。このテロメアを保持しているのが、テロメラーゼと呼ばれる酵素です。 テロメア配列は、細胞分裂の際に染色体の末端同士が、通常の細胞増殖にはない異常な融合をしてしまうのを防いでいます。一方、テルメアが短くなると、細胞の染色体は末端同士が融合してしまい、細胞が死んでしまいます。細胞のほとんどは、ライフサイクルで60〜70もの倍増ができます。細胞は老化すると、生存能力はあっても増殖できなくなってしまいます。例として、成人期の線維芽細胞はテロメアの長さが30%失われます。(Allsopp et al., 1992)
  2. エイジングを引き起こす内因性要素で大事なことが他にもあります。それは、成長因子 、それからサイトカイン、ケモカインといった細胞活動や増殖をコントロールするシグナル分子、そして細胞やその周囲媒体に必要不可欠な分子の合成レベルの低下です。性ホルモンも老化のプロセスにおい重大な影響を及ぼしています。例えば、肌のキメを保ち、水分を保持してくれるエストロゲンというホルモンは、コラーゲン、エラスチンの生成を促進し(Zouboulis, 2000)、さらにヒアルロン酸の生成も活性化しています(Epstein, 1975)。こうしたホルモンの減少によって、肌は血色が悪くなり、乾燥し、様々なエイジングサインが現れてしまいます。 肌のコラーゲンの約30%は閉経後の5年間で失われ、その後20年間にわたって1年間に平均で2.1%ずつ減っていきます。
  3. 生体分子の非酵素的糖化も、 肌のエイジングの主な原因の一つです。紫外線や それに伴う酸化ストレスは糖タンパク質の架橋結合を引き起こし、それによって紫外線が肌に蓄積してしまうのです。

例えば、ケラチンが糖化すると、茶色のシミができたり、肌の透明感が低くなってしまいます。さらに、皮膚コラーゲンとエラスチンの架橋結合が減ると、真皮構造が壊れ、血管が弱くなり、しわが出てしまうのです。一方、リゾチーム糖化は皮膚の免疫防御力を大きく低下させてしまいます。

その結果、最終的には重要な抗酸化物質スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)が糖化し、酸化ストレスに対して抗酸化作用が働かなくなってしまいます。そして、また新たに糖化されていく、という悪循環を繰り返していくのです。

このように、非酵素的糖化を防止することが、元には戻せない糖化を止める方法、つまりエイジングによる肌の変化を止める唯一の方法なのです。